山形県・羽黒山の中腹にポツンとある、江戸時代から続く茶屋がゴールデンウィークから営業を再開しました。およそ1300段の石段を進まないとたどり着けない店を、半世紀以上守り続けてきた87歳の名物女将は「ある決心」をしていました。
■上り続けて65年「自分をほめてやりたい」
山形県鶴岡市に位置する羽黒山。昔から山伏修行の地として知られる霊山です。
営業再開初日。参道に、茶屋へ向かう高城静恵さんと娘の富美さん(59)の姿がありました。
富美さん:「じゃあ、ばば。私は先に行くので頑張って上ってきて。行っている」
娘さんは準備のため一足お先に。
静恵さん:「さぁ出発しましょうか。ゆっくりですよ、私。お昼までに着くか着かないか」
参道の入り口から茶屋までは、1キロほど。およそ1300段の石段が待ち受けます。
静恵さん:「今年で65年」「(Q.ずっと?)ずっと」
23歳で結婚し、夫の茶屋を手伝うため、毎日のように石段を上った静恵さん。
静恵さん:「(夫は)結構体格もよくて、ほとんど休むことはなかった。本当に大変でした。自分をほめてやりたい」
この参道には、静恵さんが元気をもらう建物があります。1372年に建立された国宝の五重塔です。
静恵さん:「いくら雪が多くても、風雪に耐えて頑張っている。見習わなくちゃ」
小さな祠にもお辞儀を欠かさない静恵さん。神が宿る山で、商売を続けられることに感謝する毎日です。
石段が険しくなってきました。苦しいだけかと思いきや、楽しみがあるといいます。
静恵さん:「おはようございます」
女性:「きょうからですか?」
静恵さん:「きょうからです。なんとか」
女性:「上(の店が)開いていたから」
静恵さん:「またよろしく」
男性:「ご苦労さま」
静恵さん:「しばらく、この方も常連さん」
静恵さん:「おぉ、ご苦労さん」
男性:「やぁ、おばあちゃん。お久しぶり」
静恵さん:「若い人とお友達になれていいですよ。このババアが」
とはいえ、弱ってきた足腰に、この急勾配はこたえます。
静恵さん:「もう限界だな。来年は上れるかどうか」
■上り続けて1時間 「二の坂茶屋」到着
出発して実に1時間。
静恵さん:「到着」
苦労した人だけがたどり着ける、「二の坂茶屋」。江戸時代中期にできたといいます。
出羽三山神社 吉住登志喜参事:「江戸時代は(参拝者が)江戸から歩いてくるわけですよ。江戸から1カ月も2カ月も歩いてきて、さらにこの石段を上る。いくら健脚とはいえ疲れる。なくてはならない場所だった」
毎年、雪が消えると営業を再開する茶屋。4月下旬から11月上旬までオープンします。
■調味料も“ほぼ自家製” あんこの隠し味「塩」
家族中心で切り盛り。静恵さんの孫・豪さん(37)が杵でつくのは、創業当時から続く名物「力餅」です。
富美さん:「ばば、これ味見して」
静恵さん:「おっけー、おっけー、おっけー」
調味料に至るまで、ほぼ自家製。味付けは静恵さんの感覚が頼りだとか。
富美さん:「だいたい目分量なので。いい加減な感じなので、それが難しい」
静恵さん:「よく言えば“良い加減”。悪く言えば“いい加減”」
その良い加減な味付けが評判の力餅セット。「あんこ」に「きな粉」、そして「納豆」。3つの味が楽しめます。
実は力餅には、静恵さんがお客さんのために始めた味付けがあります。
10年通う常連:「あんこの塩気がちょうど良い」
静恵さん:「みんな汗を出してくるでしょ。塩分が必要なわけ」
あんこには、隠し味として塩を入れています。疲れた人を癒やしてきた茶屋ならではの心遣いです。
■営業再開で…元従業員と35年ぶりの再会
およそ半年ぶりの営業再開。久しぶりに静恵さんに会おうと、次から次へと常連さんが訪れます。
秋田から来た常連:「やっぱり顔見ると安心します。元気だって」
10年通う常連:「パワーをもらいます」
連休中には思わぬ人も訪れました。聞けば、以前にアルバイトをしていたといいます。35年ぶりの再会です。
元従業員:「また寄ります」
■旬のヨモギを求めて山へ「みなさん喜ぶ」
65年間お店を守り続けてきた静恵さん。実は、ある決心を語ってくれていました。
静恵さん:「あとは若い人に任せて完全に引退。私もそろそろ90歳になるから、やっぱり大変だもの」
それでも、静恵さんが仕事の手を休めることはありません。この季節にしか手に入らない旬の食材を求めて山へ。
静恵さん:「ちょうどいい、このくらいのやわらかくて」
お目当ては、ヨモギです。
静恵さん:「やっぱり旬のモノを食べたほうが、皆さん喜ぶじゃないですの」
富美さん:「ばば、杖を放りっぱなしだよ」「こういうのやり始めると忘れちゃうんでしょうね、足が痛いの」
ヨモギは、重曹を入れて茹でると鮮やかな緑色に。細かく刻んで力餅に練りこみます。この時期しかいただけない草餅です。
千葉から来た家族:「草餅おいしくなさそう。(一口食べ…)おいしい。これ、あそこから採ってきた草?」「そうだよ、そこから採ってきた」「ヤバァ」
茶屋の営業は午後3時まで。帰りは、孫の手を借りないと手すりがない石段を下りられません。
豪さん:「僕が小さいころはおんぶしてくれたろ?」
静恵さん:「あれから何十年経った?」
豪さん:「何十年も経った」
■引退決意…秘伝の味受け継いでもらいたい
雨の日は滑りやすいため、今年から家族は、静恵さんの出勤予定日であっても留守番をお願いしています。でも、静恵さんの不在は大きいようです。
豪さん:「みんな『おばあちゃんいるの?』『きょう来ているの?』って言いながら来る」
富美さん:「なにかと大変。(客に)山菜とかを頂いたりしても、ばばはササッとやってくれる。ばばの知恵はすごい」
引退を決意した静恵さん。家族には自分の味を受け継いでもらいたいと思っています。
富美さん:「ここの味がおいしくて来るリピーターが多いので、(味を)変えて『全然違っている』となるのもね」
とはいえ、レシピもない味を覚えるのは大変です。
富美さん:「ばば、あんこの味見してね。いかがでしょう?」
静恵さん:「もうちょっとだよな」
静恵さん:「(Q.自分たちの味に変えたいと言ったら?)お客さんの反応見て。『ここのあんこはおいしい』ってみんな言ってくれるから、できればこのままで」
やっぱり頑固な静恵さん。もうしばらく石段を上る日々が続きそうです。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp
22 comments
かなり高齢者だけど千以上の石段登る女将大したものだね大抵の人は弱音か悲鳴をあげると思うよっぽど登山に登っている人なら別だけど❗
下肢アシスト装具とかマッスルスーツなんかで、苦しくとも続けた方が健康で長生きできそう。その年でこれだけ身体機能を維持できている事が驚異的。
今まで頑張ったから、ゆっくり休んで欲しいな😊きっと味は、受け継がれると思うし。
十年後位なら
ドローンにぶら下がって通勤できるかな?
もう只々凄いという他、言葉は有りませんね・・・65年も本当にお疲れ様です。
おばあちゃんの形してるけど
これもう、山の神だろ
凄いですね!87歳 元気貰います😊
これはすごい
強制体力作り!!
今年 伺います
エレベーターを使わないタワマン住民みたいだわ
山登りは健康長寿に良いですね。多くの方が無病息災でありますように!!
ってか、食材はどうやって搬入してるのよ!? もしかしてヘリコプター投下とか?? 婆さんも一緒にパラシュート降下すれば一石二鳥(笑)
体をいたわって長生きしてくださいね
頭が下がります。娘さんと歳は近い私はいつも生きていくのは大変だと心の中でいつも思いながら仕事をしています。20代の時にアラブの富豪と出会っていたらとできもしない妄想ばかり。。。戦後をくぐりぬけて80代でも長い石段を一歩づつ丁寧に登りやっと登ったらまたひと仕事。茶屋に来た方々はみんなこの方に励まされ癒されて還るのだと感じます。山の神様のなせる技なのか?シズエさんは神様に愛されているのだと思います。
いや~~驚異のおばあちゃま😵うちの母親と同じくらいの年齢ですが、天と地の差です。言葉もシャキッとしてるし、心身ともに超健康ですね~凄すぎて大尊敬です!😊
毎年毎年新聞見ていると、 叙勲授与は公務員ばかりの感じ 地道に努力している方々に授与してください。
「自然と人間の共存」、「人と人の絆」、「生きる意味」等々を考えさせられる、古き良き時代の日本の価値観がつまった素晴らしいドキュメント。できれば、87歳の名物女将の最後の日まで取材を継続して頂き、シリーズ化して頂きたい。
87歳で凄い体力ですね。とても真似出来ない。
餅美味しそう。行ってみたいなぁ。
こういう方が急に引退したらそれはそれで心配
現代科学でなんとかならんのか パワードスーツ・・・
あつ森
バケモンだな